「マテリアリティ」とは、企業が優先的に取り組む重要課題を意味します。
SDGsやESGへの注目が高まっている現在では、環境や社会の課題に対する企業の姿勢が問われています。マテリアリティを設定することで、自社の将来についてステークホルダーに明確に示すことが可能です。
本記事では、マテリアリティの重要性やプロセスについて詳しく解説します。
マテリアリティとは
「マテリアリティ」という概念について、次の観点から解説します。
- 企業が優先的に取り組む「重要課題」
- さまざまな企業が外部に発信している
企業が優先的に取り組む「重要課題」
「マテリアリティ」とは、企業が優先して取り組むべき重要課題のことです。従業員や投資家などのステークホルダーに対し、自社がどんな課題を重視しているかを示すために活用されています。
現在では「非財務指標」のマテリアリティが注目されています。非財務指標とは、企業の直接的な業績以外を示す指標です。
これまでは利潤追求こそが、企業活動の最重要課題だと考えられていましたが、近年では社会課題への取り組みや環境への配慮など、企業の理念や戦略が注目されるようになっています。
つまり、企業を取り巻く社会や環境の課題にどう向き合い、どのような取り組みを実施するかについてステークホルダーに示すためのものが、現代のマテリアリティなのです。
さまざまな企業が外部に発信している
近年では、自社のマテリアリティを外部に公開する企業が増えています。
後述する「SDGs」や「ESG」などの概念の浸透により、社会的責任を果たすことも企業の責務だと見なされるようになったからです。
つまり財務指標ではなく、非財務指標も企業の「価値」になるということです。
主に投資家などのステークホルダーが、企業に投資する際の検討材料としてマテリアリティに注目するようになっています。
単純に「利益が出ている」というだけでは、もはやステークホルダーを動かすことはできないのです。社会課題や環境保護と向き合う姿勢を示すことは、自社の将来性や強みをアピールすることにもつながります。
マテリアリティが注目される理由・背景
近年マテリアリティが注目されるようになった背景には、次のような概念の浸透があります。それぞれの概要とマテリアリティとの関係を確認しておきましょう。
- SDGs
- ESG
- CSR
SDGs
「SDGs(持続可能な開発目標)」は、2015年に国連で採択された概念です。持続可能でよりよい世界を2030年までに実現することを目標とし、「17のゴール」と「169のターゲット」が設定されています。
SDGsのポイントは、世界の社会問題・環境問題に対し、企業も積極的に関与すべきとしている点です。各企業がSDGsにどの目標に対し、どのような課題を認識しているか注目が集まっています。
自社で実施する取り組みや、それにより実現可能な社会について、ステークホルダーに説明するためにマテリアリティが活用されています。
ESG
「ESG」とは、企業が長期的に成長するためには「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つの観点が欠かせないという考え方です。
地球温暖化に代表される環境問題や、差別や貧困のような社会問題など、私たちはさまざまな課題に直面しています。
こうした課題の解決を目指すという点で、ESGは前述したSDGsと密接な関連があります。企業がESGに配慮した経営を行うことで、SDGsの17のゴールと169のターゲットの達成に貢献できるのです。
CSR
「CSR(Corporate Social Responsibility)」は、企業の社会的責任を意味します。ビジネスの多様化やグローバル化により、企業が社会や環境に与える影響が強くなりました。
そのため企業には環境・人権や次世代に配慮し、ステークホルダーや社会に対して責任ある行動を取ることが求められるようになっています。
CSRの基本的な概念はSDGsと同じです。しかし、SDGsではゴールやターゲットがあらかじめ設定されているのに対し、CSRは社会やステークホルダーとの関係を踏まえて自由に設定できる点が異なります。
CSRについて詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
マテリアリティの種類
企業が情報を公表する対象によって、次の3種類のマテリアリティが使い分けられています。それぞれの特徴について見ていきましょう。
- シングルマテリアリティ
- ダブルマテリアリティ
- ダイナミックマテリアリティ
シングルマテリアリティ
シングルマテリアリティは、環境や社会などの非財務課題が企業価値に影響を及ぼすという見方です。
例えば、脱炭素への取り組みによって将来的な企業価値が高まるのであれば、その企業は投資家に魅力的に映ります。シングルマテリアリティは、投資家に向けた情報を公開する際に効果的です。
ダブルマテリアリティ
ダブルマテリアリティは、企業活動が環境や社会に影響を及ぼすという見方です。
例えば、原材料の調達により現地の環境を破壊してしまう場合、それ自体は企業経営に直接の悪影響を及ぼさなくても、SDGsやESGなどの観点からは重大な問題とされます。
多様なステークホルダーへの情報開示を行う際は、ダブルマテリアリティの考え方が採用されています。
ダイナミックマテリアリティ
ダイナミックマテリアリティは、マテリアリティを動的なものと捉える見方です。
つまり、社会や環境の変化に合わせてマテリアリティは変わるため、企業戦略も臨機応変に変革させる必要があり、それが企業価値や財務にも影響を与えるというものです。
例えば、アパレル企業がある地域から原材料を調達するケース。製品化の過程で強制労働などの人権侵害があっても、社会がそれに関心を示さなければ企業価値を左右することはありません。
しかし、世間の注目を集めて不買運動や禁輸措置などが起きれば、企業価値やイメージが大きく損なわれます。
このように、マテリアリティは時代によって動的に変容するものなので、企業が中長期的な戦略を練る際はダイナミックマテリアリティの考え方が重要です。
自社のマテリアリティを決定する手順・ステップ
自社のマテリアリティを特定する際は、次の4つのステップで進めましょう。
- 課題をリストアップする
- 一定基準で課題を評価する
- マテリアリティを決定する
- 事業戦略に取り込む
ステップ1:課題をリストアップする
まずは社内外における課題をリストアップします。
例えば「CO2排出量を削減する」「人権保護を徹底する」などです。
リストアップ時は次のポイントを意識しましょう。
- 国際的な枠組み
- 法規制や政策動向
- 事業活動で生じる環境負荷
- ステークホルダーの関心事
顧客や従業員だけではなくあらゆるステークホルダーに注目し、原材料の確保や製造・販売にわたる一連の流れにおける課題もカバーすることが大切です。
ステップ2:一定基準で課題を評価する
リストアップした課題について、「ステークホルダーの関心・期待」と「自社の関心・重要度」の2点から評価しましょう。
ステークホルダーを顧客、投資家、従業員、地域社会などのジャンルで分類し、アンケートやヒアリングなどで意見を交換することで、ステークホルダーにとって重要なテーマを把握しやすくなります。
複数の課題がある場合は、重要度で優先順位をつけましょう。
ステップ3:マテリアリティを決定する
優先順位をつけた課題から、事業戦略との整合性やリスクと照らし合わせ、自社のマテリアリティを特定します。このとき「チェリーピッキング」や「SDGsウォッシュ」に注意が必要です。
チェリーピッキングとは自社の都合を優先して取り組みやすい課題を選ぶことを指し、SDGsウォッシュはSDGsへの表面的な取り組みを意味します。
第三者にどのように受け取られるかを客観的に考慮し、批判の対象とならないようにマテリアリティを選びましょう。
ステップ4:事業戦略に取り込む
マテリアリティの決定後は、事業戦略に落とし込んで課題解決を目指します。その際は施策の成果を評価できるように、KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)を設定しましょう。
例えば、2030年度までにCO2排出量を3割削減し、2050年には実質ゼロを目指すなどです。社会や環境への貢献は一朝一夕では達成できないので、長期的な観点から事業戦略を立てることが重要です。
マテリアリティを設定して自社の企業価値を高めよう
マテリアリティを設定する際は、ステークホルダーや持続可能性への影響を意識して、経営戦略に落とし込むことが大切です。そのうえで実際に行動に移し、活動内容を公表してステークホルダーにアピールしましょう。
SDGsやESGへの取り組みは、大変なことのように感じられるかもしれません。しかし、自社にできる範囲で無理なく進めることで、持続的に世界の課題解決に貢献できます。
そうした取り組みが社会やステークホルダーから評価され、自社の将来的な企業価値を高めるのです。
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