炭素経営とは、気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営のことです。
本記事では、脱炭素経営が注目される理由やメリットなどを紹介します。
脱炭素経営に取り組む際の手順や企業事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
脱炭素経営とは「気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営」のこと
脱炭素経営とは、気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営のことです。
脱炭素とは、CO2排出量を実質ゼロにし、カーボンニュートラルを実現するための取り組みを指す言葉です。
日本では2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標を掲げているので、脱炭素経営に力を入れる企業も増えてきています。
脱炭素経営の推進は、SDGsの目標7「エネルギーへのアクセス」や目標13「気候変動への対処」の達成にかかわるものでもあります。
脱炭素経営とあわせて知っておきたい用語
脱炭素経営とあわせて知っておきたい用語には、以下の4つがあります。
- カーボンニュートラル
- TCFD
- SBT
- RE100
各用語について知ることで脱炭素経営に対する理解も深まるので、ぜひ参考にしてください。
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロとすることです。
「実質ゼロ」とは、日常生活で排出される温室効果ガスの量と、植物が吸収する量を相殺してゼロにするという考えです。
2020年10月に日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
国内の企業には、カーボンニュートラルを実現するため、温室効果ガスの排出量削減や植林、森林の管理などの取り組みが求められています。
TCFDとは
TCFDとは、気候関連財務情報開示タスクフォースのことです。
気候変動に関する方針や取り組みなどを開示することを企業に推奨する国際組織として、2015年に設立されました。
設立したのは、国際金融の規制や監督を行っている金融安定理事会です。
TCFDは、投資家や金融機関がスムーズに投資判断を行えるように、気候変動に関する財務情報の任意開示を企業に促すことを目的としています。
TCFDが情報開示を推奨している項目は以下の4つです。
推奨項目 | 概要 |
ガバナンス | 気候関連のリスクや機会に対するガバナンスを開示する |
戦略 | 気候関連のリスクや機会が経営戦略や財務計画などに与える影響を開示する |
リスク管理 | 気候関連のリスクに関する選別や管理、評価などを開示する |
指標と目標 | 気候関連のリスクや機会を評価・管理する際の指標や目標を必要に応じて開示する |
参考:環境省「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド 2022年度版~」
脱炭素経営を行う際に重視すべき点については、TCFDの推奨項目を参考にすると良いでしょう。
SBTとは
SBTとは、民間企業が自主的に設定する温室効果ガス排出量の削減目標のことです。
民間企業は、パリ協定で掲げられた「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標に向け、5~15年先を見据えた中長期的な温室効果ガスの削減目標を設定するように求められています。
SBTを定めることは投資家からの評価にもつながります。資金調達が容易になる可能性もあるので、脱炭素経営を行う際、まずはSBTを設定してみてください。
RE100とは
RE100とは、事業活動で使用するエネルギーを100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す、国際的な企業連合です。
一般企業の主導で、再生可能エネルギーの必要性を政府や自治体に訴えるため、2014年に発足しました。
2024年現在、全世界で426社、日本で87社が加盟しています。
これから脱炭素経営に取り組もうと考えている方は、RE100に参画している企業の取り組みを参考にするのもおすすめです。
脱炭素経営が注目されている理由
日本政府が2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言したことが、脱炭素経営に注目が集まる理由のひとつです。
加えて、社会や環境などに配慮するESG経営やESG投資が注目されていることも影響しています。
ESG経営とは環境・社会・ガバナンスの観点から経営する手法であり、脱炭素経営も含まれます。
ESG投資とは、環境・社会・ガバナンスに配慮した経営が企業の成長につながるという考え方(ESG)を用いて、投資先企業の価値を測る手法のことです。
脱炭素経営を行うことは、ESG投資をしている投資家や金融機関などからの評価にもつながります。
一方、脱炭素経営に取り組まない場合、取引企業や就職希望者が減ってしまうリスクがあります。
企業によっては、取引先にも脱炭素経営を求める可能性があり、脱炭素経営に取り組んでいない企業との取引をやめる可能性があるからです。
また、就職の際に企業の環境対策を重視している人も多いため、脱炭素経営に取り組んでいないことが人材確保に不利になってしまうこともあり得ます。
このようなリスクを避けるためにも、自社にできる範囲から脱炭素経営を始めましょう。
ESG経営について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
脱炭素経営を行うメリット3選
脱炭素経営を行うメリットには、以下の3つがあります。
- 投資家からの評価が向上する
- 国の補助金や支援が受けられる
- 企業イメージが向上する
それぞれのメリットについて詳しく紹介するので、脱炭素経営に取り組む際の参考にしてみてください。
1.投資家からの評価が向上する
昨今ESG投資が注目されていますが、脱炭素経営もESG投資の評価項目に含まれます。
脱炭素経営を行うことで、ESG投資を行う投資家の目にも止まりやすくなり、投資対象になる可能性が高まるでしょう。
ESGの観点で高評価を得ていれば、投資家だけでなく金融機関からの評価も向上します。
ESG投資について詳しく知りたい方は、以下の記事もご確認ください。
2.国の補助金や支援が受けられる
脱炭素経営を推進するためには、国が用意するさまざまな補助金や支援を活用できます。
自社のリソースだけでなく国の制度を活用することで、脱炭素経営を推進しやすくなる企業も多いでしょう。
たとえば、以下のような補助金や支援が用意されています。
他にも多くの制度があります。
利用を検討している方は環境省の「令和6年度予算 及び 令和5年度補正予算 脱炭素化事業一覧」をご確認ください。
3.企業イメージが向上する
脱炭素経営を行うと、企業のイメージ向上が期待できます。
環境問題に対する企業の対応が問われている昨今、脱炭素経営に舵を切る企業は、より共感が得られやすくなるといえます。環境や社会に貢献している企業で働きたいと考える人も多いでしょう。
企業のイメージが良くなることに付随して、人材を確保しやすくなる点もメリットです。企業のイメージが向上することで、従業員のモチベーションの向上や顧客拡大などの効果も望めます。
脱炭素経営に取り組む際の2つの注意点
脱炭素経営に取り組む際の注意点には、以下の2つがあります。
- コストが発生する
- 取引先の見直しが必要となる
これから脱炭素経営に取り組もうと考えている方は頭に入れておいてください。
1.コストが発生する
脱炭素経営を行うには、設備投資や再生可能エネルギーの購入などに、多くのコストが必要です。
新たに設備を購入する場合は、購入時だけでなく、購入後のメンテナンス費や管理者の人件費なども発生します。
コストの回収にはある程度の時間が必要になるため、中長期的な視点での経営が大切です。
コストを抑えながら脱炭素経営をしたい場合は、前述したような国の補助金や支援を活用することも視野に入れましょう。
2.取引先の見直しが必要となる
脱炭素経営は自社だけでなく、サプライチェーン全体で行うものなので、場合によっては取引先の見直しが必要となります。
取引先に対して脱炭素経営をするよう促したり、新しい取引先を探したりする必要があるかもしれません。
自社で取り組むだけでなく、取引先も巻き込むことになるため、多くの労力がかかる点にも注意しましょう。
脱炭素経営に取り組む際の手順
脱炭素経営に取り組む際の手順は以下の通りです。
- 広範な情報収集をしながら方針を検討する
- CO2排出量を算定する
- CO2排出量の削減計画を策定・実行する
- 取り組みについて発信する
脱炭素経営に取り組む際の参考にしてください。
1.情報を収集して方針を検討する
脱炭素経営を推進する際は、情報収集して方針を検討することから始めます。
世の中・地域・業界の動きや、取引先の意識、消費者のニーズを把握するためには、脱炭素経営に関するセミナーや講演会に参加したり、取引先や顧客と積極的に対話することが大切です。
また、地方自治体や商工会議所の中には相談窓口を設置しているところもあるようなので、活用してみるのもひとつの方法です。
情報収集のタイミングで、利用できそうな補助金や支援についても詳しく調べておくと、実際に取り組みをスタートさせる際の参考になります。
集めた情報を参考に、自社の業界や事業に適した脱炭素経営の方針を検討してください。
2.CO2排出量を算定する
脱炭素経営の方針が決まったら、自社のCO2排出量の算定をしましょう。
CO2排出量は「活動量×係数」で求められます。
なお、活動量とは電気や燃料の使用量のこと。係数はエネルギーごとに決められた数値で、こちらの一覧に記載されています。
算定が必要なエネルギーは以下の通りです。
- 電気
- ガス
- 灯油
- ガソリン
- 液化天然ガス
CO2排出量を算定する手間を省きたい方は、日本商工会議所が提供する「CO2チェックシート」の活用がおすすめです。
CO2チェックシートに毎月の料金や使用量をエネルギーごとに入力するだけで、CO2排出量が自動計算されます。ぜひ活用してみてください。
参考:環境省「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック」
3.CO2排出量の削減計画を策定・実行する
CO2排出量が把握できたら、削減計画を策定しましょう。
算出したCO2排出量を参考に、削減できるポイントを明確にします。
この際、エネルギー別だけでなく、事業所や設備ごとにも分析しましょう。
実行する際は、まずはすぐに実行できる取り組みから始め、徐々に取り組みを広げていくと良いでしょう。
短中期的に行える対策例
短中期的にすぐに行える対策には、以下のようなものがあります。
対策 | 具体例 |
エネルギー使用量の削減 | ・使わない部屋の照明を消す |
設備効率の改善 | ・電気をLEDに変える |
このようにコストをかけずに取り組める対策が多くあります。
可能な取り組みから始めてみましょう。
長期的に行う対策例
長期的に行う対策には以下のようなものがあります。
対策 | 具体例 |
エネルギー種別の変更 | ・EV車両を導入する |
エネルギーの生産 | ・太陽光発電を導入する |
長期的に行う対策は、コストが発生するものが多いですが、CO2排出量削減に大きく貢献できます。
自社の事業に適した内容から、取り組める対策を考えてみましょう。
4.取り組みについて発信する
脱炭素経営を行う際には、社内外に対して取り組みを見える化し、発信しましょう。
社内に対して発信することで、脱炭素経営に対する考え方が従業員に浸透し、会社全体で脱炭素経営を推進できるようになります。
また、社外にも取り組みを情報公開して発信することで、知名度や認知度が上がるだけでなく、新たな顧客の獲得につながる可能性もあります。
協力企業や就職希望者の獲得にもつながるでしょう。
脱炭素経営を推進している2つの企業事例
脱炭素経営を推進している企業の事例として以下の2社を紹介します。
- 株式会社アシックスの事例
- 株式会社村田製作所の事例
1.株式会社アシックスの事例
世界的なスポーツ用品メーカーである株式会社アシックスは、パリ協定の「1.5℃水準」を目標に掲げ、脱炭素経営に取り組んでいます。
2050年に向けた「温室効果ガス排出実質ゼロ」に対する具体的な取り組みは、以下の通りです。
- 2030年までに事業所での使用電力を再生可能エネルギーに切り替え
- 2030年までに1次生産委託先工場でのエネルギー使用量を削減
- 2030年までに1次生産委託先工場でのエネルギーを再生可能エネルギーに切り替え
- 2030年までにシューズ及びウェアの再生ポリエステル材に切り替え
事業所に太陽光パネルを設置するなど、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを行っています。
2.株式会社村田製作所の事例
村田製作所はモノづくりにおける気候変動対策に取り組んでいる企業で、RE100に加盟しています。
具体的な取り組みは以下の通りです。
- 太陽光発電の導入
- 再生可能エネルギーの購入
- 生産時におけるエネルギー使用の最適化
村田製作所では、2030年・2050年の中長期的な目標だけでなく、毎年度の短期的な目標も立てながら脱炭素経営に取り組んでいます。
Webサイトで年度ごとの温室効果ガス排出量を公開するなど、環境対策について積極的に発信しています。
脱炭素経営に取り組むために情報収集から始めよう
脱炭素経営とは、気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営のことです。
日本政府が2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言したことにより、注目が集まっています。
脱炭素経営に取り組むと、投資家からの評価の向上によって資金調達がしやすくなったり、企業のイメージが良くなることで人材確保がしやすくなったりするメリットがあります。
一方、脱炭素経営に取り組む際には、新しい設備や再生可能エネルギーの導入によってコストが発生する点には注意しましょう。
コストを抑えて脱炭素経営に取り組みたい方は、国が用意している補助金や支援の制度を活用するのがおすすめです。
まずは脱炭素経営に関するセミナーや講演会に参加するなどして、世の中や業界の動きを把握してみることから始めましょう。
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