「CSV経営」とは、社会や環境の課題解決に貢献することで自社の事業を成長させることができる、という考え方です。これまでは企業経営が評価される際、経済的な数値から判断されることがほとんどでしたが、近年では社会への貢献度や環境への取り組みも企業価値を図るひとつの指標となっています。
自社の事業に影響を与えうる環境課題や社会課題に対するアプローチは長期的には事業の持続可能性の向上につながりますし、CSV経営を実践して「自社のビジネスを取りまく中長期的な環境の変化やリスクも視野に入れた変化に強い経営が出来ている」という評価を得られれば、事業や企業の持続可能性向上にもつながります。
しかし、CSV経営を具体的にどう始めるとよいのか、分からない方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、CSVの重要性やメリットを解説したうえで、実際の事例について紹介します。CSV経営の取り組みについて関心がある経営者の方や、CSV経営推進部署に配属された方などはぜひ参考にしてみてください。
CSV経営とは
「CSV経営」とは、社会課題の解決に取り組むことが自社の経済的な利益につながるという考え方です。CSV経営について、まずは次のポイントから見ていきましょう。
- CSV経営の定義
- CSRとの違い
- SDGsとの違い
- CSV経営が重要な理由
CSV経営の定義
「CSV(Creating Shared Value)」は「共通価値の創造」を意味し、企業が社会的な価値と経済的な価値の双方を創出するという考え方です。
CSVの概念は、アメリカの経済学者であるマイケル・ポーター教授によって提唱されました。中小企業庁が発表した「2014年版 中小企業白書」では、「企業が事業を営む地域社会や経済環境を改善しながら、自らの競争力を高める方針とその実行」と定義されています。
CSVはあくまでコストを踏まえたうえで、社会と経済双方の発展を実現する取り組みであることがポイントです。つまり、自社の経済的価値を創出するために、社会課題やニーズに取り組む姿勢がCSV経営なのです。
CSRとの違い
CSVと混同されやすい概念が「CSR(Corporate Social Responsibility)」です。CSRは「企業の社会的責任」を意味し、自社の利益だけではなく社会課題にも注目し、環境保全や地域活動などで社会に貢献すべきという考え方です。
企業が社会に貢献するという点では両者は同じです。しかし、CSRが社会貢献と利益は結びつけていないのに対し、CSVではその両立を目指しています。CSVは社会貢献が自社の利益を生むという考え方なので、事業の一環として社会貢献を行うことがポイントです。
SDGsとの違い
「SDGs(Sustainable Development Goals)」は、「持続可能な開発目標」を意味します。社会や環境のさまざまな課題を解決して持続可能な未来を実現するために、国連サミットで17の目標と169のターゲットが設定されました。
SDGsは世界の課題を包括的に解決するための概念であり、「ビジネスも人や環境に配慮した形でしっかりと持続させていく」という指針はありますが、国家や自治体などさまざまなプレイヤーが想定されており、企業だけに特化した目標ではありません。
CSVは特に企業経営に焦点が絞られており、企業の事業活動の一環として社会貢献を行い、それによる利益の創出を目指すという前提のもとに推奨される活動で、SDGsとは異なります。
CSV経営が重要な理由
CSV経営が注目される理由のひとつが、世界で発生しているさまざまな課題への関心の高まりです。
例えば、資源の大量伐採や廃棄などの環境問題や、強制労働・違法残業・ハラスメントなどの社会問題です。前述したSDGsやCSRなどの概念が普及するとともに、企業の姿勢に対して厳しい目が向けられるようになっています。
例えば、ある企業が海外で衣服を生産する過程で、児童労働が行われていたというケースを考えてみましょう。そのような事態が発覚した際、企業はメディアの糾弾を受けるだけでなく、SNSなどでも悪評が拡散されて大規模な不買運動に発展する可能性があるかもしれません。企業がいくら素晴らしいものづくりやサービスを提供していたとしても、その背景に強制労働や違法労働の実態があると厳しい批判や非難の対象となってしまいます。
このように、社会に対する企業の姿勢は、経営リスクと大きく紐づくものなのです。
一方、社会的な課題に対して意義のあるサービスや環境に配慮された商品などを提供する企業は、消費者からのイメージや信頼が高まり、多くの顧客を獲得できる可能性があります。
また、自社の取組をしっかりと情報開示して投資家からの評価を高めることができれば、社会・環境問題への取り組みは将来的に自社に還元されることになります。
CSV経営を実現するための3つのアプローチ
「2014年版 中小企業白書」によると、CSV経営の実現には次の3つのアプローチが必要だと考えられています。
- 製品と市場を見直す
- バリューチェーンの生産性を再定義する
- 拠点地域を支援するための産業クラスターをつくる
製品と市場を見直す
CSV経営で重要なポイントは、自社の事業活動の一環として社会問題の解決に貢献することです。そのためには、まず既存事業がどのような社会問題と関連しているかを検討しましょう。
課題をビジネスチャンスと捉えることで、自社の製品・サービスの強みを活かしながら、新たな価値を提供できるようになります。
バリューチェーンの生産性を再定義する
「バリューチェーン」とは、企業のひとつひとつの事業活動が価値を提供すると考え、企業がサービスや商品を創造・製造して顧客に提供するまでの一連の流れを「価値の連鎖」という捉え方で考えることです。CSV経営では、社会や環境の課題を解決するために、バリューチェーンの見直しを図ることが推奨されています。
例えば、製品の製造段階におけるCO2排出量が多いのであれば、それを減少させることで環境問題の解決に貢献できます。バリューチェーン上にある環境への悪影響を抑えながら、利益を生み出せる取り組みを行うことが重要です。
拠点地域を支援するための産業クラスターをつくる
「産業クラスター」とは、自社の事業分野に関連する企業が密集した地域のことです。例えば、アメリカのシリコンバレーはIT分野の産業クラスターです。
CSV経営の観点では、複数の企業が協力して産業クラスターを創出することで、地域の雇用創出による活性化や、地元住民の生活レベルの向上などが見込めます。さらに、自社単独では行えないような大規模な事業も可能となるなど、新たなビジネスモデルや価値の創出にもつながるでしょう。
CSV経営に取り組むメリット・効果
企業がCSV経営に取り組むことで、次のようなメリットや効果が期待できます。
- 自社のブランドイメージが向上する
- 既存事業のさらなる成長が見込める
- ほかの企業との新たなつながりが生まれる
- ダイベストメントを回避しやすくなる
自社のブランドイメージが向上する
CSV経営は自社ブランドのイメージ向上につながります。近年では消費者が企業の経営姿勢に注目し、社会に好ましくない影響を与える企業の商品・サービスは避けられる傾向が強まっています。
環境問題や地域貢献に取り組む姿勢を積極的にアピールすることで、消費者からの信頼や共感を勝ち取れるでしょう。
既存事業のさらなる成長が見込める
CSV経営に取り組む過程では、製品・市場やバリューチェーンの再検討など、既存のビジネスモデルの見直しが求められます。新規事業への参入やITシステム・AIの導入などの変革もあり得ます。
一連の施策の結果として、ビジネスの効率化やコスト削減、新たな価値の創出などが実現できれば、既存事業がよりいっそう成長することもあります。
ほかの企業との新たなつながりが生まれる
CSV経営は広い領域をまたいで行う取り組みなので、自社単独で完結しないケースは珍しくありません。例えば産業クラスターの創出を目指すのであれば、地域のほかの企業との連携が欠かせません。
また、同じ課題に取り組む企業同士でつながりが生まれることもあります。他社との連携により新たな事業が生まれるなど、思わぬチャンスに巡り合えるのもCSV経営の魅力です。
ダイベストメントを回避しやすくなる
「ダイベストメント」とは、社会や環境に悪影響を及ぼす企業への投融資を避けて、投融資している資産を引き上げることを指します。現在の投資家は短期的な業績だけではなく、事業の持続可能性を長期的に評価する傾向があります。
そのため、「ESG(環境・社会・ガバナンス)」に配慮した企業体質へと舵を切ることで、ダイベストメントを避けられます。社会に貢献しながら利益を出せる企業は、事業の持続可能性が高いと判断できるため、投資家は魅力を感じるのです。
CSV経営の代表的な事例
CSV経営の重要性やアプローチ手法を解説しましたが、具体的な取り組み方のイメージがつきにくいかもしれません。そこで世界の代表的なグローバル企業のCSV経営の事例を紹介します。
- トヨタ自動車株式会社|6つのチャレンジで地球環境問題を解決
- ネスレ日本株式会社|2025年までに包装材料を再生可能に
- キリンホールディングス|健康・コミュニティ・環境の分野で社会貢献
トヨタ自動車株式会社|6つのチャレンジで地球環境問題を解決
トヨタ自動車株式会社は、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しました。これは気候変動・資源枯渇・生物多様性などの課題に対し、自社製品が与えるマイナス影響を限りなくゼロに近づけるというものです。例えば、CO2排出量が少ない自動車や、リサイクル技術の開発への取り組みなどです。
また、国内外での植樹活動や、世界の環境保全団体と協力して行う環境活動など、グローバルな領域で取り組みを行う予定です。自社単独ではなく、NGOや地域社会と連携して進めていることも特徴です。
ネスレ日本株式会社|2025年までに包装材料を100%再生可能に
ネスレ日本株式会社は、2025年までに包装材料を100%リサイクル・リユース可能にすることを目指しています。プラスチック廃棄物は、地球温暖化や海洋汚染など環境破壊をもたらす深刻な問題です。
同社が展開する各国で、適切に機能する収集・分別・リサイクルスキームの開発や、リサイクルプラスチック市場の発展などに寄与すると宣言しています。自社製品を改善してCSV経営につなげるという点で、同社の事例はあらゆる業界で参考になるでしょう。
参考:2025年までに包装材料を100%リサイクル可能、あるいはリユース可能にすることを目指す
キリンホールディングス|健康・コミュニティ・環境の分野で社会貢献
キリンホールディングスは、「健康」「コミュニティ」「環境」の3つの分野で社会課題に取り組むことで、社会貢献を目指しています。例えば、糖質・カロリー・カフェインをオフにした健康的な商品の提供や、石油資源や二酸化炭素の使用量削減などです。
そのほかに、酒類メーカーとしての責任を果たすために、アルコール有害摂取根絶のための活動やセルフケアできる飲料・食品開発、グループ企業とともに医薬・バイオケミカル事業を行っていることも注目すべき点です。
参考:社会との価値共創
自社の強みを活かしたCSV経営で持続的な成長を目指そう
企業がCSV経営に取り組むことで、自社ブランドのイメージ向上や既存事業の成長、ダイベストメント回避などのメリットが見込めます。
CSV経営のアプローチ手法は、製品と市場の見直し、バリューチェーンの再定義などさまざまです。自社製品・サービスを通じてどのような社会貢献ができるか検討し、できる範囲でCSV経営に取り組んでみましょう。その姿勢が社会から評価され、自社の将来的な企業価値が高まっていきます。
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