コラム

CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)とは?3つの質問書や企業が取り組むメリットを解説

CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)とは?3つの質問書や企業が取り組むメリットを解説
目次

「CDPとはどのような意味?取り組むメリットは?」と、疑問や悩みをもっている人も多いのではないでしょうか。

CDPとは、イギリスの慈善団体の支援によって設立された機関で、企業へ環境に関する質問書を送付し情報を収集しています。

本記事では、CDPとは何か、またCDPからの質問書はどのような内容か解説します。記事の後半では、CDPの質問書に対応するメリットも紹介していますので、最後までご覧ください。

CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)とは?

CDPは、2000年にイギリスの慈善団体が支援して設立された機関で、企業へ環境に関する質問書を送付し回答を公表したり、企業の取り組みを評価したりしています。企業の取り組み評価が公表されることで、環境問題の意識づけをおこなうことが同機関の目的です。

CDPが創設された当初の名称は「Carbon Disclosure Project」でした。しかし、のちにカーボン(二酸化炭素)に関係する項目以外の情報もカバーすることとなり、2013年に正式名称を「CDP」に変更しています。

CDPについて理解するためには、次の項目を知っておく必要があります。

  • CDPの設立目的
  • CDPの活動内容
  • CDPと環境省との連携

ここからはCDPの内容について詳しく解説していきますので、基礎知識として覚えておくといいでしょう。

CDPの設立目的

CDPの設立目的は、世界的な気候変動に対応するためです。

気候変動は自然災害をもたらし、深刻な被害を発生させます。被害を防止するには、企業や自治体が気候変動にどのような影響を与えているのか、情報を集めて分析する必要があります。

CDPの前身である「Carbon Disclosure Project」は、二酸化炭素の排出や気候変動に関する情報を、世界規模で収集し公表することで環境を守ろうとしていました。

しかし、環境問題への対応は二酸化炭素排出量の計測だけでは不十分であり、水や森林資源等に対する幅広い取り組みにおける情報収集が必要になります。情報収集の範囲を広げる必要性が高まったことで、現在は二酸化炭素以外の情報も収集しています。

CDPの活動内容

CDPの主な活動内容は年に1回、対象企業へ質問書を送付し、回収した質問書の内容を公表したり、企業を段階別に評価することです。

CDPではF~Aまでの9段階で企業の取組を評価しており、F以外のアルファベットにはBとB-、DとD-というように2種類のランクがあります。

質問書の内容やCDPによる企業評価は投資家や政府などに提供されて、さまざまな取り組みに利用されています。たとえば投資家の場合、ESG投資やサステナブルファイナンスの対象として適切な企業かどうか判断するために利用します。

CDPと環境省との連携

CDPは環境省と連携して取り組みをおこなったり、資料を公開したりしています。

代表例としてはCDP・環境省Water Project共催シンポジウム」が挙げられます。

「Water Project」とは、環境省が進める健全な水循環の維持・回復の推進を目的としたプロジェクトです。企業・自治体の水に関する取り組みをCDPと共同して紹介しています。

また、環境省のホームページには「CDPからの情報提供」として、CDPの活動内容や活動に賛同る日本企業の掲載もおこなわれています。

CDPからの3つの質問書

CDPから企業に送られてくる質問書は、次の3つです。

  1. 気候変動質問書
  2. 水セキュリティ質問書
  3. フォレスト質問書

それぞれの質問書の内容を理解し、CDPの取り組みに参画する準備を進めていきましょう。

気候変動質問書

気候変動質問書は、次のような内容です。

  • 温室効果ガスの排出量
  • 温室効果ガスの削減目標
  • 企業の取り組み
  • 取り組みに対する実績
  • 気候変動問題に対する企業としての取組体制
  • リスクや事業戦略の根拠 など

気候変動に関する質問書はCDPの発足当初から存在するもので、内容はTCFDの提言する開示情報と重なる部分が多くあります。TCFDに参画している企業であれば、質問へ回答しやすいでしょう。

水セキュリティ質問書

水セキュリティ質問書は、次のような内容です。

  • 取水量・排水量・消費量の合計値
  • 再生水の割合
  • 水が事業に与える影響や今後想定されるリスク
  • 水問題に対する意識やマネジメント方法
  • 水問題の解決の取り組み手順
  • 水問題に対するビジネス戦略 など

水に関連する質問書は2010年に追加され、特に水を多く利用する企業に対して配布されます。水に対する意識を向上させ、汚染水による自然破壊や水資源の確保していくことを目的としています

フォレスト質問書

フォレスト質問書は、次のような内容です。

  • 企業の経済活動が森林減少に与える影響
  • 生産地への負担 など

森に関連する質問書は2012年に追加され、大豆・木材・天然ゴム・植物油などの原料を多く利用する企業におこなわれます。

森林の破壊は二酸化炭素の吸収量の減少に直結し、地球温暖化の速度を早めてしまいます。また気候変動による自然災害が多発すると、経済が悪化して企業経営も停滞しかねません。

CDPによる森に関する質問書の回答公表は、森林保護の必要性を周知させる役割を果たしています。

CDPスコアによる企業評価

CDPの質問書に回答することで、CDPスコアがつきます。

CDPスコアは、次の基準でランク分けされています。取組の進捗度は、「1.情報開示」→「2.認識」→「3.マネジメント」→「4.リーダーシップ」という4つのランクに分かれ、1から順を追って評価が行われます。

レベル

気候変動

ウォーター

フォレスト

最終スコア

情報開示

0-44%

0-44%

0-44%

D-

45-79%

45-79%

45-79%

D

認識

0-44%

0-44%

0-44%

C-

45-79%

45-79%

45-79%

C

マネジメント

0-44%

0-44%

0-44%

B-

45-79%

45-79%

45-79%

B

リーダーシップ

0-79%

0-79%

0-79%

A-

80-100%

80-100%

80-100%

A

引用:CDP スコアリングイントロダクション 2019

回答した質問書の内容によって上のように点数が付けられ、パーセンテージに変換された上で最終スコアが確定します。

たとえば、ある企業が、まず情報開示レベルで70%を獲得し、次に認識レベルで50%を獲得した場合、認識レベル50%に該当する「C」がその企業のスコアです。

スコアは情報開示から段階的に上昇していき、情報開示・認識・マネジメントの段階を越えるとようやく最高レベルのリーダーシップに到達できます。

ただし、得点を得られるのはCDPが定める項目だけであり、定めていない項目は評価に入りません。CDP定めていない項目が環境にいい活動だとしても、CDPに評価されない点には注意しましょう。

たとえば、地震による津波で風力発電が破壊されないような対策をしていると記載しても、気候変動と地震には関連性がないため、CDPの評価には反映されないといったことがあり得ます。

CDPに対応する企業のメリット

企業がCDPの質問書に対応することによって、次のようなメリットが得られます。

  • 企業のブランディングにつながる
  • ESG投資の対象となる
  • TCFDやTNFDの準備ができる
  • サステナブルな経営に取り組める

質問書に回答すれば、事業拡大の可能性が高まります。なぜ事業拡大の可能性が高まるのかみていきましょう。

企業のブランディングにつながる

CDPの質問書に対応すれば、企業のブランディングにつながります。

企業活動は気候変動に大きな影響を与えており、温室効果ガス排出量の削減や環境に配慮した製品の製造などが企業の責務となっています。

しかし、気候変動対策にはコストがかかり、企業の多くはなかなか対応できません。そのような中、率先して気候変動の問題に対応している企業は、ほかの企業との差別化ができ企業のブランド力が向上します。

企業のブランド力向上は、顧客の満足感や信頼感の向上や、新規顧客の獲得やといった効果が期待できます。

ESG投資の対象となる

CDPに回答した内容が公表されれば、ESG投資の対象になる可能性があります。

ESG投資とは、環境や社会に配慮しながら適切なガバナンス(企業統治)を行っている企業を評価して実行される投資のことで、非財務情報を投資判断にしていることが特徴です。

通常の投資は、企業のキャッシュフローなどの財務情報を参考にしておこなわれます。しかし、近年は投資の世界でも、環境問題や社会的課題に取り組む企業を評価する動きがでています。

目先の利益だけを追求せず、企業活動が環境におよぼす影響を理解し、かつ環境問題が長期的に企業活動に及ぼすリスクの可能性についても考慮する、レジリエントな企業(ビジネス環境の変化に柔軟に対応できる企業)とみなされるからです。

CDPの質問書は国際的に信用度の高い情報と位置づけられており、投資家が企業を評価する際に、ESG投資の対象として適切か確認する資料としても利用されます。ESG投資の対象となれば、資金調達の幅が広がり、事業拡大も期待できます。

TCFDやTNFDの準備ができる

CDPの質問書に対応できれば、TCFDやTNFDへ参画する準備ができます

TCFDとは、企業の財務に影響する気候関連情報の開示を推進するタスクフォースです。TCFDが開示を推奨する項目には、CDPの質問書と同じ項目が含まれます。CDPの質問書に答えれば、TCFDが求める情報開示にも対応しやすくなるでしょう。

次に、TNFDとは、自然資本や生物多様性に関するリスクなどの情報開示を推進するタスクフォースです。TNFDの考え方のベースはTCFDと類似するため、TCFDに参画すればTNFDの推奨する情報開示にも対応しやすくなります。

サステナブル経営に取り組める

CDPの質問書に回答すれば、サステナブルな経営に取り組めます。

質問書の内容に回答するには、自社でどのような取り組みができるのか、取り組みをするにあたってどのような障害があるのか把握しなければなりません。そして、実際に計画に取り組み、実績を分析してよりよい計画を再構築するというサイクルを実行することになります。

このようなサイクルを継続すれば、環境や社会問題に対するノウハウが蓄積されていきます。ノウハウの蓄積は新たな計画につながり、環境に配慮した新商品や新サービスの開発のヒントにもつながります。

CDPに回答するには費用がかかる

CDPに回答する場合、次のように回答事務費用がかかります。

費用名

金額

利用できる特典

Essential level fee

116,600円

・CDPコーポレートダッシュボードページ等を通じた回答
・CDPツールの利用
・CDPを通じた情報開示による対話の機会

Foundation level fee

324,500円

・Essential level feeの全特典
・CDPジャパンイベントの優先的参加権限

Enhanced level fee

772,200円

・Essential level feeの全特典
・CDPサポーターとして CDPウェブサイト組織名掲載
・CDPイベントで企業名紹介
・企業サスティナビリティレポートCDP ディレクターからコメント など

 上記のように3つの回答事務費用が用意されており、自社にあったものを選択できます。 

支払う費用によって受けられる特典の内容が変わるため、どの回答事務費用を払えばいいのか特典の内容も含めて検討しましょう。 

なお、2024年度より日本は「Essential level fee」を選択できなくなっており、2つの回答費用から選ぶ必要があります。

CDPに取り組むAランクの日本企業

CDPに取り組み、CDPスコアAを獲得している企業の一例は次のとおりです。

企業名

気候変動のランク

フォレストのランク

水セキュリティのランク

花王株式会社

A

A

A

積水ハウス株式会社

A

A

A

中外製薬株式会社

A

-

A

コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社

A

-

A

イオン株式会社

A

-

-

ANAホールディングス 株式会社

A

-

-

アステラス製薬株式会社

A

-

-

株式会社ブリヂストン

A

-

-

※2024年8月5日現在

上記はAランクを獲得している一部であり、全体でみるとAランクを獲得している企業数は次のようになります。

  • 気候変動:112社
  • フォレスト:7社
  • 水セキュリティ:36社

また、2023年現在、情報を開示している日本企業は1,985社です(2024年8月5日現在)。多くの企業がCDPに取り組み、サステナブルな経営を実行しているのかがわかります。

CDPの内容を理解しサステナブルな経営に取り組もう

CDPとは、イギリスの慈善団体の支援で設立され、企業が環境に対してどのように取り組んでいるかという情報を収集している組織です。

情報は企業に質問書を送付して回収するという方法でおこなわれ、回収した情報をもとにCDPスコアとして企業を評価します。高いCDPスコアを獲得すれば、事業によい影響を与え業績の向上につながります。

CDPの質問書に回答すればメリットが得られるため、サステナブル経営に取り組む際には、参画を検討してみてはいかがでしょうか。


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