昨今、国際社会ではサステナブルな視点が重視されています。SDGsという国際目標も制定され、世界的に目標達成へ向けた取り組みを推進しています。
一方で、実際に企業がSDGsに取り組み、最大限の効果を得るためには従業員の理解が必要です。自社が行っているSDGsへの取り組みが従業員に広まらず、社内浸透に課題を感じている担当者も多いでしょう。
この記事ではSDGsを社内浸透させる効果的な取り組みや、企業の実例について解説していきます。どのような取り組みをしていけばよいのか悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。
そもそもSDGsとは?
SDGsとは2015年の国連サミットで採択され、2030年までに達成を目指す17の国際目標です。環境問題だけでなく社会的な課題も解決目標として定められており、持続可能な社会の実現を目指しています。
日本でもSDGsの達成に向けて、各企業が取り組みを求めています。
内閣府地方創生推進事務局が2022年に公表した「令和3年度上場企業及び中小企業における地方創生SDGsに関する調査」によると、日本企業でSDGsの取り組みを行っているのは以下の割合です。
| SDGsを知っている | SDGsに取り組んでいる |
上場企業 | 97% | 80% |
中小企業 | 61% | 40% |
出典:令和3年度上場企業及び中小企業における地方創生SDGsに関する調査
上場企業の約80%はSDGsに対してなんらかの取り組みを実施しているものの、中小企業ではSDGsに取り組んでいる企業が40%と半数以下です。
今後、上場企業ではSDGsに取り組むのが当たり前となり、中小企業であればSDGsに取り組むことで他の企業との差別点になると言えるでしょう。
SDGsの社内浸透に課題を抱えている企業は多い
環境省が2023年に公表した「企業による従業員教育の現状と課題について」によると、SDGsに取り組む上で、『社内での展開方法』を課題としてあげた企業は以下の通りです。
企業規模 | 10~249人 | 250~4,999人 | 5,000人以上 |
割合 | 33.3% | 56.2% | 46.2% |
このように企業規模が大きくなるほど、社内でSDGsを浸透させるのが難しいと回答している企業も多いです。
一方で、同調査によると『トップのコミットメント』を課題として挙げた企業は全体でも10%未満となっており、上層部のSDGsに関する意識は高くなっています。つまり、中間管理職や一般職の従業員にSDGsを浸透させることが今の大きな課題と言えるでしょう。
SDGsの社内浸透を目指す際の3つの課題
社内浸透の実現は決して簡単ではなく、多くの企業が苦戦しています。SDGsの社内浸透の取り組みを行う際に課題となるのは以下の3点です。
- 何から取り組めばよいのか分からない
- 社内の浸透具合が分からない
- 取り組みをしても、あまり効果がでない
それぞれ具体的に見ていきましょう。
1.何から取り組めばよいのか分からない
SDGsの社内浸透を任された担当者の中には、いろいろな取り組み例を紹介されたところで、何から手を付ければよいのか困惑するでしょう。そういった時は現時点での社内での浸透具合や取り組み状況に応じて、実施する施策を使い分けましょう。
SDGsが社内でまったく浸透しておらず、基本的な知識もない従業員が多いのであれば、まずは張り紙や研修などを活用して、必要となる知識を広げていく取り組みがおすすめです。
基本的な知識を従業員に共有できたのであれば、事業とSDGsの関係やSDGsを推進していく必要性を紹介していくなど、一歩踏み込んだ取り組みを実施していきましょう。
2.社員への浸透具合が分からない
SDGs浸透に向けた取り組みをする一方、どの程度効果がでているのか分からないケースも多いです。
社内の従業員がどこまでSDGsについて理解しているのかを把握しなければ、次にどのような取り組みが効果的なのかが判断できません。
社内でのSDGs浸透具合を確認したいのならば、意識調査アンケートが有効です。アンケートでは「研修やセミナーで分かりにくかったところはないか」といった理解度を直接的に図る項目を設けてみましょう。
他にも「SDGsに関することで実施してみたい取り組みは何か」といった項目を設ければ、従業員がどこまで自分事としてSDGsを捉えられているのかを確認できます。
3.取り組みをしても、あまり効果がでない
SDGs浸透に向けていくつかの取り組みをしたものの、あまり成果を実感できないという場合は、一度施策の方向性を見直してみましょう。
SDGsを浸透させた後のゴールは何なのか、そのために社内ではどのような状態になってほしいのか、など施策の目標地点をあらためて明確にします。
方向性が曖昧な状態では取り組むこと自体が目的になってしまい、取り組みの効果も薄まってしまいます。また、取り組もうとしているSDGsの目標が、実際の現場での業務と解離していないのかも要チェックです。
どれだけ丁寧に分かりやすくSDGsを紹介していったとしても、内容が現場とミスマッチしていると、ただの綺麗事だと思われ浸透はしないでしょう。
施策の方向性がずれないためにも、上司や現場の人たちとSDGsに関する取り組みについて直接話し合う機会を設けることが重要です。
SDGsを社内浸透させる効果的な取り組み7選
続いてSDGsを社内浸透させる際におすすめの取り組みを7つ紹介していきます。
- SDGsに関する研修を実施する
- 動画やeラーニングを活用する
- 事業所にSDGsの張り紙をはる
- 自社でのSDGsの取り組みを外部へ発信する
- SDGsに関する社内イベントやキャンペーンを実施する
- 人事評価にSDGs関連の指標を取り入れる
- SDGsに関する専門の担当者や部門を設置する
社内の体制や現時点での浸透具合をもとに、参考にする取り組みを選んでいきましょう。
1.SDGsに関する研修を実施する
SDGsを社内浸透させるための一般的な取り組みとしては、SDGsに関する社内研修を実施することです。社内研修であれば以下のような伝えたい情報も、体系的に説明できます。
- SDGsの概要
- どの目標に取り組むのか
- 自社の事業とどのような関係があるのか
- SDGsへの取り組みにどのようなメリットがあるのか など
ただし、内容を忘れないためにも複数回研修を実施する必要があり、講師として研修を担当する従業員の負担が大きくなります。
社内で研修を実施する場合には、継続して実施できるような社内体制を事前に整えておく必要があるでしょう。
2.動画やeラーニングを活用する
研修ではなく、事前に撮影した動画やeラーニングを活用するのもおすすめです。一度作成した動画やeラーニングは何度も繰り返し使えるため、新入社員や中途社員が入ってきたとしても対応できます。
また、これらのコンテンツはいつでも、どこでも視聴できるため、わざわざ社員全員が同じ時間に都合を合わせて研修を受ける必要がありません。テレワークや在宅勤務が導入されている企業では動画やeラーニングが重宝するでしょう。
自分たちでコンテンツを作成するのが難しければ、一般公開されているような外部コンテンツを活用するのもよいでしょう。
3.事業所にSDGsの張り紙をはる
最も簡単な取り組みとしては、事業所や仕事現場にSDGsについて記載された張り紙を掲載することです。張り紙をはるだけなので、担当者の負担が小さいのも大きな特徴です。
張り紙に伝えたい情報を記載することで、従業員はSDGsのどの目標が自社の事業、取り組みとつながっているのかを一目で確認できるようになります。
しかし、張り紙をじっくりと見る人はほとんどいないため、伝えられる情報量は少なくなるでしょう。体系的にさまざまな情報を伝えたいのであれば、研修や動画の方が効果的です。
張り紙をはるだけの手軽な取り組みになりますが、従業員に「自社もSDGsに取り組んでいるよ」という旨をアピールするならば、効果的な方法と言えるでしょう。
4.自社でのSDGsの取り組みを外部へ発信する
自社の事業がSDGsの達成へ貢献しているのであれば、それを社内外へ発信してみましょう。発信方法としては自社の取り組みをレポートにまとめてHPに掲載したり、社内報で共有するなどが挙げられます。
自社の取り組みに関するコンテンツを作成し共有することで、SDGsと自社の事業のつながりを詳細に把握できるようになります。また、取引先や消費者、金融機関といった、ステークホルダーへのアピールにもなるでしょう。
ただし、レポートを外部に発信した場合、ステークホルダーとのやり取りでレポートの内容が話題に上がる可能性があります。そこから会話を盛り上げるためにも、従業員はレポートの内容を把握しておかなければいけません。
5.SDGsに関する社内イベントやキャンペーンを実施する
ある程度従業員にSDGsが浸透しており、さらなる発展や取り組みを目指すのであれば、SDGsに焦点をあてたイベントやキャンペーンを実施してみましょう。
具体的には以下のような取り組みが有効です。
- 普段自社のサービスを利用いただいているお客様とSDGsに関する催し物を開催する
- マイボトル持参でエコバッグのプレゼントなどの企画を開催する など
大規模なイベントでは、SDGsを題材にしたアイデアコンテストを開催する企業もあります。こうしたイベントがあれば従業員もSDGsを自分事として捉えられるため、SDGsの浸透率向上につながるでしょう。
6.人事評価にSDGs関連の指標を取り入れる
従業員の人事評価にSDGsに関する指標や項目を採用するのもよいでしょう。
具体的には以下のような項目が挙げられます。
- 生産部門:製品の生産プロセスにおいて、どのくらい省エネを実現できたのか、二酸化炭素排出量を削減できたのか
- 製品開発部門:環境に配慮された新製品を開発できたのか
- 営業部門:環境に配慮された製品の販売数 など
自身のSDGsへの取り組みが企業からの評価につながり、給与の向上へ影響するのであれば、多くの従業員がSDGsへの関心を高められるでしょう。
SDGsに関する評価制度を導入するのであれば、どういった指標を重要視するのか、企業としての方針を固めておかなければいけません。従業員に対して説明責任を果たすためにも、まずは自社の企業方針を練っておきましょう。
7.SDGsに関する専門の担当者や部門を設置する
企業規模が大きくて対応すべき業務が多いのであれば、SDGs専門の担当者を育成したり、専門部署を設立するのもおすすめです。
営業部署や生産部署と同じようにSDGs部署が設置されて、社内で活躍が知られるようになれば、自然とSDGsの社内浸透が実現できます。
また、昨今は環境問題への対策として、さまざまな規制や制度が施行されています。特定の事業者に対して、事業によって排出した温室効果ガスの排出量を算出させ、データの提出を義務付ける「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」もその一つです。
こういった規制や制度に対応していくためにも、SDGsに詳しい人材を育成するのは今後の事業発展にも役立つでしょう。
SDGsの社内浸透を実現させた事例2選
最後にSDGsの社内浸透を実現させた企業の事例を2つ見ていきましょう。
現在SDGsの社内浸透を目指している企業の担当者は、ぜひこれらの事例を参考にしてみてください。
イオン株式会社
イオングループはサステナビリティに関しても積極的に取り組んでおり、実店舗での二酸化炭素排出量削減や事業活動における使い捨てプラスチック削減などを行っています。
こうしたサステナビリティの取り組みを実現するためには、従業員へグループの方向性を浸透させることが重要です。
そのため、イオングループでは新入社員の段階からサステナビリティに関する研修を実施しています。
具体的には毎年3,000人以上の新入社員に対して、普段から実施しているサステナビリティに関することや、入社後に実践したいアイデアを発表するイベントを行っているようです。
こういった取り組みを通じて社員全体へSDGsを浸透させ、大規模なサステナビリティプロジェクトを実現させています。
参考:イオンのサステナビリティ | イオン株式会社 (aeon.info)
株式会社ニッケンホールディングス
株式会社ニッケンホールディングス(以下:ニッケンホールディングス)は不動産の購入や建築、リフォーム、売却など、建築関連のサービスを網羅的に行っている会社です。
ニッケンホールディングスも時流に合致した組織体制の構築に向けて、SDGsに関する取り組みを実践しています。
具体的には以下のような取り組みを通じてSDGsの達成に貢献しています。
関わりのあるSDGs目標 | SDGs目標達成に向けた取り組み |
目標1:貧困をなくそう | 生活保護を利用している方でも利用できる生活サポートサービス「ニッケンサポート24(かけつけサービス)」 |
目標5:ジェンダー平等を実現 | 女性の採用や役職者の育成に力を入れ、ジェンダー平等の実現を目指す |
ニッケンホールディングスでは取り組みをはじめた当初、社内でSDGsという言葉があまり浸透していませんでした。
そこでSDGsの社内浸透に向けて、SDGsへの取り組みを社員へ共有したり、どういった事業や取り組みがSDGsへとつながっているのかを示しました。
参考:社会貢献・SDGs | ニッケングループホールディングス | 戸田市の不動産、建設、リフォーム、DIY、住まいと暮らしの応援団 (nikken-holdings.co.jp)
従業員の理解度に適した施策でSDGsを社内浸透させよう
社内でSDGsを浸透させるには、従業員の理解度に応じた施策が重要です。また、社内での体制や最終的な目的、事業とSDGsの関係なども、効果的な取り組みに関わります。
他社の取り組みを参考にしながら、効果的にSDGsの社内浸透を目指しましょう。
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